覆水盆にカレーライス

カレーは中辛 布団は羽毛

「ドッキリ大成功」は見たことあるけど「ドッキリ成功」ってあんまり見たことがない。

今週のお題「寿司」

 

回らないお寿司屋さんに行きたいかぁー!

 

元ネタこそ知っているが実際に聞いたことないセリフで始まったわけだが、回らないお寿司屋さんに行ってみたい委員会委員長のAtnelです。

 

当委員会もかなりメンバーが多いと思われるが、我々が直面している問題を確認したい。まずはお金の問題。ピンキリではあるがこれはそこまでの問題ではないと考えられる。回らないお寿司屋さんに行くことだけを考えれば難しくはない。まあ実際には普段の生活など考えることはいくらでもあるが今回この問題については置いておくことにする。

 

もう一つの問題、それはお店がどんな感じなのかが分からなくて行きにくいということである。どんな服着行けばいいのか、何人くらいで行けばいいのか、どうやって注文するのか、など考えだしたらキリがないほど疑問が湧いてくる。

 

私は回らない寿司屋に関してはハンマーヘッドシャークのあそこだったり、チョウチンアンコウのあそこだったり、スパムが出てくるという情報しか知らない。そこで我々もシミュレーションしようではないかというのが今回の議題である。これは芸人なんかがよくやる手法でみなさんもテレビなどで一度は見たことがあるだろう。彼らは漫才師であると同時にシミュレーション屋でもあるのだ。早速始めていきたい。

 

 

雰囲気のある扉を開き入店するとそこは寿司屋であった。カウンターには他にも客が座っており、案内されて我々が座るとどうやら満席のようだ。席についてもその側に寿司が流れるためのレーンはもちろんない。おしぼりを受け取り手を拭く。緊張しているのかいつもより動きがぎこちない。遂に回らない寿司屋に来たのだ。楽しんで帰らねば。

 

こういう寿司屋では基本的に大将がおまかせで握ってくれるはずである。出てきたものを食べる、なんだ簡単じゃないか。少し不安が和らいだ気がした。

 

少し待っていると、我々の前に料理が出された。天ぷらである。確かに、こういうお寿司屋では最初に一品料理が出てくるなんてことをどこかで聞いたことがある気がする。寿司を食べに来た客にまず寿司じゃないものを出す。完全に焦らされている。この時点で我々は寿司屋の手のひらの上というわけだ。

 

いざ天ぷらを食べてみると、もちろん美味しい。衣のサクッとした食感の後にモチッとした食感がやってくる。そして冷たく甘いアイスクリームが溢れてきた。

 

雪見だいふくやん。

 

なんと雪見だいふくの天ぷらだった。確かに美味しいものではあるがまさかこんなところで食べるとは思わなかった。老舗のお店と聞いていたが流行りも取り入れているということか、感心した。いや雪見だいふくの天ぷらっていうほど流行ったか?

 

たぶんそんなに流行ってないよなと考えていると、大将が我々の前に握った寿司を置いてくれた。いよいよ始まったか。このときをどれほど待ったか。

 

いなり寿司である。

 

いや確かに寿司だ。まごうことなき寿司だが想像とは少し違う。しかし、寿司屋の質は玉子で確認するみたいな言葉も聞いたことがある。いなり寿司もその一環なのではないだろうか。きっとそうだ、それにまずはジャブからということなのだ。コースでいきなりメイン料理が出てくるレストランなんてない。

 

もちろん美味しい。いつも食べているスーパーのいなり寿司とは比べ物にならない。こんな雰囲気の中ならスーパーのいなり寿司が出てきても同じことを言っているかもしれない。テンションが上ってきた。想定とは少し違うが、美味しいものを食べていることに変わりはないのだ、当然である。さあ次はなんだ鮪か?海老か?私は鰤が食べたい。

 

いなり寿司である。

 

ほう、またいなり寿司か。もしかすると他の席と間違えているのではないだろうか。それか我々にもういなり寿司を出していることを失念してしまっているのだろうか。しかしなかなかそんなことを言い出せるような雰囲気ではない。それに、いなり寿司を美味しそうに食べていた我々のことを見て気を利かしてくれたのかもしれない。そうだ、これは大将の粋な計らいなのである。それを「間違えてますよ」なんて言おうものなら大将に恥をかかせることになる。そうとしか考えられないと自分の中で結論を出しいなりを口に放り込む。やはり美味しい、客の様子をしっかり見ている一流のお店というわけだ。

 

さあ、前哨戦は終わった。こちらも舌が温まってきたというところである。何が来てもまたたく間に美味しく頂いてやろう。

 

いなり寿司である。

 

おかしい。そんなにいなり寿司が好きそうな顔をしているだろうか。生まれてこの方「いなり寿司が好きそうな顔だね」とは一度も言われたことがない。しかし言われたことがないだけでそういう顔なのかもしれない。帰ったら鏡で確認しなくてはならない。「さすがにいなり寿司はもう大丈夫そうな顔」をして食べることにする。どうだ?

 

いなり寿司である。

 

だめだ、いなり寿司である。大将の方を見ると自信に満ちた表情をしている。どういうことなのか、さっきの顔が伝わらなかったのだろうか。もしかしたら「あれ、このいなりはさっきまでとなにか違う、いまいちだ顔」だと思われてしまったかもしれない。

 

いなり寿司である。

 

さすがにおかしい。大将に言わないと。しかし本当にそうなのか。この場において一番の素人は初めての寿司屋である我々なのだ。勝手に思い込んでいただけで本来寿司屋とはこういうものなのかもしれない。一度落ち着こう、我々は余裕を持った人間だ。

 

いなり寿司である。

 

しかし言えない。もう自信がない。これで異を唱えたが最後、他の客に嘲笑されるかもしれないのである。この時代だ、その様を動画に撮られSNSにアップされる。批判の嵐で大炎上し地球温暖化も進んでしまう。それだけは避けなければ。

 

いなり寿司である。

 

分かったドッキリだ。某ドッキリ番組の某モニタリングだ。気づくのに時間がかかってしまって恥ずかしい。しかし辺りを見回しても隠しカメラらしきものは見当たらないし、ドッキリ大成功のパネルを持った人が入ってくる気配はない。

 

いなり寿司である。

 

もしかしてレベルアップ制なのでは?今日はじめて寿司屋に来た我々は言わば寿司レベル1である。レベル1ではいなり寿司しか食べられないのだ。そうだとするとどうすればレベルが上がるのか。いなり寿司を食べた個数?それとも来店回数?後者だとすると今日はもういなり寿司しか食べられないことになる。

 

その後もいなり寿司が次々と現れ、それを食べることしか我々には出来なかった。お腹もそろそろ限界である。来店回数でレベルが上がる寿司屋だったのだ。きっと次来たときにはいなり寿司の他にかっぱ巻きなんかも食べられるようになっているに違いない。

 

会計を済ませ帰宅する。なんだか疲れた。初めてのことだったのだからそれも当然である。7月も半ばに差し掛かり、クーラーをつけていないとなかなか寝られなくなってきた。しかしそのまま寝ては体が冷えてしまうのでちゃんと油揚げを被って寝なくてはいけない。

 

 

#57